伽羅通信

鎌倉十三仏巡り 十二番札所 極楽寺

小さな極楽寺が歴史に刻んだ偉大な足跡

のんびり走る江ノ電で極楽寺に向かいました。小規模ながら鎌倉屈指の観光名所が、750年余の往古には律宗の巨刹として繁栄し、布教以外にも国際貿易や道路整備、難病治療や貧者救済など実に活発な社会活動を実践していたそうです。その理由や原動力は何だったのか?今回は、十二番札所の極楽寺に秘められた、興味つきない物語を訪ねてみました。

鎌倉十三仏霊場 十二番札所 大日如来/抜苦王
※写真は許可をいただいて撮影しております。

宗教にとどまらぬ極楽寺の3つの事業

赤いポストと懐かしい風情の駅舎

赤いポストと懐かしい風情の駅舎

門前の案内板によると、「忍性(1217-1303年)」が極楽寺に開山として招かれたのは1267年。以来、北条氏が全面支援する律宗寺院として広大な寺域に堂塔伽藍が立ち並んでいたそうです。忘れてならないのが宗教活動以外に、いくつもの社会的な役割を果たしたこと。その一つ目は「医療・慈善」事業で、何万人もの難病人を治療し、貧者に布衣を配って救済しました。二つ目は「港湾管理」事業で、材木座の港「和賀江島」で国内交易の関税を徴収、大陸からの輸入品も取り仕切る国際貿易の寺という顔も持っていました。三つ目が「基盤整備」事業で、数多くの道路や橋を建造・修繕しました。こうした社会事業を、なぜ忍性が率いる律宗集団が実践したのでしょうか?

釈迦の教えに帰って厳しい戒律を守る

門の目の前を江ノ電が通る

門の目の前を江ノ電が通る

本堂に入って、寺の歴史と律宗について、ご住職から詳細で入念な講話をうかがいました。忍性の師「叡尊(えいそん)」は旧仏教に属した律宗の改革者で京で活躍。弟子の忍性も貧者・弱者を救済する社会事業を通して、この武家の首都で布教を展開しました。難病者治療などでは、当時隆盛を極めた鎌倉新仏教各派よりずっと深く民衆のくらしに踏み込んでいたのです。講話の後、宝物殿で居並ぶ諸仏像と一緒の空気を吸いながら、往古を偲びました(残念ながら本尊は非公開)。この極楽寺の律僧たちは、釈迦の定めた「戒律」を厳格に守り、自らにあくまで厳しく、弱者にかぎりなく優しい存在だったに違いありません。その凛然とした姿勢と実行力は、鎌倉人の目に、誰にもまして頼もしく映ったことでしょう。一見、宗教をはみでた感のある救済活動や経済活動が、釈迦の教えの実行という素朴で骨太な理想に貫かれていたのですね。

幾万の困民から父と慕われた忍性

ここで幾多の困民が救われたという

ここで幾多の困民が救われたという

弱者救済や基盤整備は、信仰の力だけでは足りず、医療や土木など専門人材と巨額な予算が不可欠です。忍性は、無類のリーダーシップと超人的なエネルギーを兼ね備えた慈悲の人でした。中世鎌倉は苦難の時代で、ひっきりなしの地震や洪水、干ばつなど自然災害が人々を苦しめ、餓死者が巷に充満。火災や兵乱などの人災も容赦なく襲いかかってきました。忍性は、悲惨な現実に目を背けることなく立ち向かい、弱者や病人に覆いかぶさる闇夜を照らす、希望の光となったのです。寺院の真価は伽藍のサイズではなく人々の感謝の涙で計れたら…と、つい感傷がわきあがるほど、古寂びた極楽寺には、語れど、語れども尽きない鎌倉時代の人間ドラマが秘められています。

日本の誇るべき大福祉事業家

静かな谷間には江ノ電がふさわしい

静かな谷間には江ノ電がふさわしい

傷病者や貧者・弱者救済といえば、現代人の頭に浮かぶのは19世紀のナイチンゲール(1820-1910年)や、20世紀のマザー・テレサ(1910-1997年)のこと。しかし、13世紀に、この仏寺の律僧たちが勝るとも劣らない偉大な足跡を残したことを、私たちはもっと噛み締める必要があるのではないか…。そんな思いを胸に極楽寺駅を後にしました。

極楽寺(ごくらくじ)

住所

〒248-0023
鎌倉市極楽寺3-6-7

電話番号

0467-22-3402

拝観時間

午前9時~午後4時(宝物殿は土・日曜、祝日のみ。8月は閉館)

拝観料

無料(宝物館は300円)

アクセス

江ノ島電鉄極楽寺駅より徒歩2分

詳細

真言律宗の名刹。山号は「霊鷲山感応院極楽寺」、創建は正元元年(1259年)、開山の忍性菩薩は、施薬院、悲田院、施益院、福田院の四田院を設け、難病者を治療し貧者を救済する福祉事業に取組みました。また橋を架け道を補修するるなどの土木事業にも力を注ぎました。かつては七堂伽藍と四十九の塔頭の大寺院でしたが、災害や火事、戦災によって多くを消失しました。

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