伽羅通信

鎌倉十三仏巡り 一番札所 明王院

鎌倉武士が崇拝した「明王院」の不動明王を訪ねて

世にも恐ろしい形相の不動明王を、鎌倉時代の武士たちがあがめた理由は何だったのでしょうか?どうして現在も「お不動さま」と呼ばれ広く信仰されているのでしょうか?今回は、忿怒の仏さまの魅力を探りに、十三仏巡拝一番札所の「明王院」を訪ねました。折しも月に一度の「護摩法要」の日。供養ではなく祈願のお寺で体験した真言密教の炎の儀式をご紹介します。

鎌倉十三仏霊場 一番札所 明王院
※写真は許可をいただいて撮影しております。

渦巻く紅蓮の炎と、音楽的な読経の響き

茅葺きがなんとも優しい風情の本堂

茅葺きがなんとも優しい風情の本堂

おりしも境内は桜が満開

おりしも境内は桜が満開

明王院の本堂は、まっすぐのびた参道の奥にたたずんでいます。童女のおかっぱ頭のように、ぽってりと可愛い茅葺き屋根の階段前で、線香を供え入堂しました。信者は女性中心で20人ほど。ほぼ同数の十三仏巡拝客を前に護摩壇に向かった三人の僧侶が読経を開始。本尊の不動明王に正面した若い僧の太い声を追い、信者たちは「三帰」「十善戒」「観音経」などのお経を唱和します。鎌倉時代さながらのほの暗い空間に、お経が波動となり鼓動となって響き渡ります。護摩壇では炎が紅蓮の龍のごとくに燃えあがり、白い煙が天井をおおいします。やがて激しい炎と一心不乱な読経が共鳴し、空中を舞う肉声が心地よいリズムの音楽と化して、心身が洗い浄められ陶酔感すら感じました。最後に護摩木に願いを込めて火に投じ合掌。恐ろしいばかりの不動明王のお顔が、心なしか柔らかく見えました。

鎌倉人がこぞって祈った、強大な元軍の降伏

静寂につつまれた懸崖の狭間

静寂につつまれた懸崖の狭間

「明王院」は、四代将軍藤原頼経が祈願寺として建立(1235年)し、幕府の鬼門除けとして五大明王を祀っています。その中心的な存在の不動明王の表情は、穏やかな如来や菩薩と違って全身で怒りを表わす「忿怒相」。大日如来の命令でこの世の悪を断つだけでなく、修行する者を護る仏さまなのです。十三仏信仰では、化身である「秦広王」として、亡くなった人を初七日(7日目)に裁き、三途の川を渡る場所を定めます。鎌倉時代は仏教信仰の厚い時代でした。王朝から政権を奪い取った武士たちは、雄々しく男性的な不動明王の姿に、己の理想を重ねたのでしょう。ふりかえれば当時の中国「宗」は、鎌倉人にとってすべての面で「あこがれの国」。その先進国をあっけなく地上から抹殺した元の軍勢が襲来するという国家的危機に直面するや、鎌倉人はこぞって、ここ明王院の不動明王に異国降伏を祈願したのです。古寂びた本堂で恐ろしい形相の仏さまと対面していると、確かに、怒らせたら恐くてたまらないが、味方になったら実に頼りになる存在だと実感しました。

暮らしを照らす、不動明王の真の優しさ

祈願寺として人々の信仰を集める

祈願寺として人々の信仰を集める

護摩法要が終了し、温和な表情のご住職は「家族でも会話のない時代だからこそ、親もお寺も、人間同士のぬくもりを伝えなくてはなりません…」と話されました。炎の修法の後だけに、乾いた大地に落ちた雨粒のように講話がすっと胸にしみ込みました。不動明王の忿怒の表情の裏側には、信ずるものへの無限の優しさが隠されているようです。帰りかけたご住職に、母娘が念願の大学に受かったことを報告し、ご住職から娘への祝福と励ましの言葉が、聞くともなしに耳に入ってきました。きっと、幼い頃から、いや誕生前からの御縁なのでしょう。娘さんが、えも言われぬいい表情で微笑んだのが、強く印象に残りました。その昔、鎌倉武士たちを魅了した「不動明王」は、こうして時代を超えて飾らず誇らず、自然体で受け継がれているのですね。血の通った信仰という精神遺産が今も息づく「明王院」。訪ねれば去りがたく、去ればまた来たくたくなる鎌倉十二所の小さなお寺で、ぜひ一度、護摩法要を体験されたらいかがでしょうか。

明王院

住所

〒248-0001
神奈川県鎌倉市十二所32

電話番号

0467-25-0416

拝観時間

午前9時~午後4時

拝観料

志納

アクセス

JR鎌倉駅東口から京急バス「金沢八景駅」行き、「鎌倉霊園前太刀洗」行き
または、ハイランド循環乗車約13分 「泉水橋」下車徒歩5分

詳細

真言宗御室派の古刹。四代将軍藤原頼経が、1235年に将軍の祈願寺として建立。幕府の鬼門除けの祈願寺として本尊の五大明王が大きなお堂にそれぞれまつられていたことから、古くから「五大堂」と呼ばれていました。五大明王とは「不動・降三世・軍荼利・大威徳・金剛夜叉」で、鎌倉市内で祀られているのは明王院だけです。

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